退職代行サービス「モームリ」に関するニュースを見る機会がありました。
今回、モームリ社が依頼者を提携弁護士に紹介する見返りとして手数料を受け取っていたことが問題となり、2026年8月28日、東京地裁は元社長ら運営会社側に有罪判決(懲役刑・執行猶予、法人に罰金200万円)を言い渡しました。提携先の弁護士側にも同年6月、有罪判決が出ています(弁護士側は控訴中)。
このニュースを見て、こんな風に思われたりした方もいるのではないでしょうか?。
手数料を取るというのは商売では当たり前なのに、なぜそこまで問題になるの?
そう思われる方もいらっしゃると思います。
ですが、「紹介料」というお金の流れは、士業・師業といった専門職の倫理と大きく関係しています。
最初は、退職代行のニュースについて読んでいたら
私がだいぶ前から感じていたことと、繋がっていきました。
「人の人生が変わるきっかけに関わる仕事に、お金が関わるというのはどういうことなのか」
「カウンセリングを広めるためにマーケティングをすることと、心理職として守るべきものは、どこまで両立できるのか」
そして、
「カウンセリングは商売なのか、それとも商売とは違うのか」
私自身がこれまで22年以上人生の半分以上をカウンセリングを通して人の心に携わさせて頂いてきた中で考えてきたことになります。
目次
専門職の紹介料が問題になるのはなんで?
一般的な商売では、紹介料や販売手数料って珍しくなく当たり前です。
誰かに紹介して貰って、その紹介から契約が成立すれば、紹介した側に手数料を支払う。
不動産、人材紹介、広告など、色んな業界で当たり前に行われています。
でも、なぜモームリでは弁護士も刑事罰をうけることになったのか?
それは、弁護士だけではなく、法律や医療、心理などの専門職でも、こうしたお金のやり取りが慎重に扱われる専門職としての在り方、倫理規定が関係しています。
その大きな理由の一つが、利益相反、一方の利益が他方の不利益になるような、利害が対立する状態になります。
専門家が優先すべきなのは、目の前にいらっしゃる依頼者やクライエントの利益になります。
当然ですよ。
でもそこに、「この人を紹介したら自分にお金が入る」「この人の紹介だから紹介料を払わないといけない」といった仕組みが入ると、専門家の判断に経済的な利害が入り込む可能性があります。
「本当にこの人を紹介することが、その人にとって一番良いのか」
それとも、
「紹介すれば自分にも利益があるからなのか」
その境界が曖昧になってしまう可能性が生まれるのではないか?

【図解】経済的な利害が専門家の判断を歪める可能性「利益相反」の構造
アメリカ心理学会(American Psychological Association略称APA)の倫理規定に、紹介と料金についての規定があります。
倫理基準6.07「紹介と料金」
一つは、倫理基準6.07「紹介と料金」です。ここでは、他の専門職との間で報酬の支払い・受領・分配を行う場合、それは提供した業務そのものに対する対価でなければならず、紹介という行為そのものへの対価であってはならない。
とされていて、
倫理基準3.06「利益相反」
もう一つは、倫理基準3.06「利益相反」です。ここでは、個人的・経済的な利害関係によって、専門職としての客観性や判断が損なわれる可能性が合理的に予測される場合、その役割を引き受けることを控えるべきだ。
とされています。
つまりこの二つを合わせたらと、
「紹介そのものにお金を払ってはいけない」
というだけでなく、
「経済的な利害が、自分の判断を歪める可能性がある場面そのものを、そもそも避けるべきだ」
と、私は理解しています。
これは、
お金を受け取る際に、「何に対してお金を受け取っているのか」
ということが重要なのだと思います。
もし、あなたがカウンセリングを受けられるときに関係することです。
カウンセラーが「紹介したらお金が入る」という動機を持たずに、お金が判断基準にならない環境が整っているかどうか。
それが、あなたの利益を守ることに繋がります。
心理カウンセラーの倫理規定については、心理カウンセラーになる前に学ぶのですが、その後、2012年頃に改めて学びなおしました。
心理職の倫理について学んでいく中で、歴史の長いアメリカの心理学会の倫理規定なども参照していきながら、日本に合わせて考えられてきたものというのを知りました。
その後、この倫理規定にある、紹介によるいかなる報酬を貰ったり、与えてはならないという倫理規定がずっと気にかかっていて、あるサービスを活用するか迷った時がありました。
プラットフォームが悪い、という単純な話ではありません
心の事をどうやったら広げれるか、インターネット上の情報を調べたり、マーケティングについて学んだりしていると、日本でもカウンセリングを探すためのさまざまなプラットフォームが増えてきました。
その中に、ココナラというサービスで相談を請け負い広げている人がいる事を知ったんです。
それで、AYHカウンセリングルームの事業は登録しましたが、この倫理規定が気にかかりカウンセリングを出品しないことにしています。
これはプラットフォームが集客や決済、システムなどのサービスを提供し、その対価として手数料を受け取ること自体は、一般的なビジネスとでよくありますよね。
ただ、個々に手数料を払わなければならない。
というのと、
「最後の一枠」を考えたとき、私は100%平等だと言い切れるのか?
ココナラでは、出品者側に販売時の手数料がかかります。
そこもひっかかりました。
ですが、それ以上に気になったのは、クライエント一人ひとりによって、自分に入ってくる報酬が変わるという仕組みでした。
もちろん、
「この人は手数料がかかるから、カウンセリングの質を下げよう」
とか考えないですよ。
どのクライエントさんに対しても、同じように向き合います。
それは当然だと思ってます。
でも、いかなる場合も平等に考えられるのか?
勿論、そのつもりです。
ですが予約枠が、あと一つしか残っていなかったらどうだろう。
そんなことを考えました。
直接予約をしてくださる方と、プラットフォーム経由で申し込まれる方がいたとします。
一方は手数料がかからず、もう一方は手数料がかかります。
私は本当に、その違いをどんな状況でも、一切1ミリも考慮せずに、100%同じ視点で判断できるのか?
本当に「絶対に大丈夫だ」と言えるのか?
「100%そうだとは言い切れない」可能性があるのではないか?
なので、出品しないことにしました。
これは、ココナラを否定したわけではないですよ。

【図解】「最後の一枠」を前に、手数料の有無は専門家の判断に影響を与えないか?
私が、訪れてくださるクライエントさんを本当に平等に見れるのか?倫理規定に準ずる為どういう環境を選ぶべきなのか。
どちらの経路から予約されたとしても、その違いによって対応が変わることのない環境を用意すること。それは、カウンセリングの技術以前に、心理カウンセラーとして守られるべき、根底にあるものになります。
そう言えば、ココナラ以外にも全国の様々な講師の方を集めてセミナーを開催している方からお声掛けを頂いたことがありました。
実際お会いしてお話ししてみると、その時の条件が、セミナー参加者からの手数料は勿論、そこからカウンセリングに繋がった時も手数料を支払うというものでした。
知名度はあったので、売り上げも上がるだろうし、心の事を広げるという視点で葛藤しましたが、心理カウンセラー倫理規定を思い出し抵触する可能性を考えお断りさせて頂きました。
今回のモームリ社の件を例にすると、
- モームリ:弁護士が退職代行会社に、紹介の見返りとして支払う(弁護士→仲介業者)
- セミナーの提案:私が、紹介元に、カウンセリング成約の見返りとして支払う(カウンセラー→紹介者)
- ココナラ:カウンセラーがプラットフォームに、取引の見返りとして支払う(カウンセラー→仲介業者)
構造が似ていて、引っかかるところもありますし、「法で罰せられるかどうか」ではなく心理職であるなら最低でも守るべきラインの倫理規定を遵守できるのか。
その様に考えて、利用しないと判断しています。
ただ、これを書いていて思ったのは、もしそうなった場合の葛藤を避けるためにそのような判断をしていないのか?
葛藤のない人生なんてありません。そのような場面に出くわし、葛藤し、心理カウンセラーとしてあるべき判断を行う。
そうすることで成長に繋がっていくから、成長する機会を逃している。とも考えらる気がします。
そう言う事も含めて、今後心理カウンセラーとしてどうしていくか・・・
一旦、保留ですね。
倫理規定に関係するお話で、
心理カウンセラーとして絶対に外せない「守秘義務」
墓場まで持っていく覚悟
もし、クライアントさんの家族の人を知っていて、もしその知っている家族の表に出して欲しくない事をお話しされたとします。
それで、もし私が知っているクライエントさんのご家族と、もめることがあったとしても、どんなに最悪なパターンになったとしても、そのクライアントさんから聞いた内容は一切話しません。
その覚悟がなければ、そのお話しを聞かせていただく資格はないのですから。
墓場まで持っていく覚悟。
こんな風に言われる事結構あります。
カウンセリングを受けられて何年か後に「うちの○○がカウンセリング受けてたって聞いたよ!」
とか言われ、ほぼ皆んな驚かれています。
えっなんでですか?
と聞いたら、「そんな話聞いてなかったから…」
「守秘義務がありますから。」
「そうだけど……」
こんな言葉を時折耳にする事もあります。
「守秘義務と言ってもすぐ話す人いるから、信じられん。」
色んな人がいるのですね。
人の心に触れさせて頂く、その方の人生が変わるきっかけに携わらせて頂く仕事をさせて頂く上で、心理カウンセラーとして外せない事。
守秘義務が守れなかったら安心して話せそうですか?
話せないですよ。
このような姿勢は、私個人の考えというだけでなく、心理職という仕事に課せられた重い責任でもあります。なぜ私たちがここまで徹底するのか、その根拠については、心理カウンセラーが絶対に守る守秘義務:あなたの秘密を守る安心の約束の記事でも詳しく解説しています。
倫理規定に定められていることは、カウンセリングを行うために必要な、最低限守られる事だと実感しています。
私は、完ぺきではないですし、完璧であろうとはしませんが、心理カウンセラーとして当たり前のことを当たり前にする。
私という心理カウンセラーとしての倫理についての在り方になります。
ここまででも、心理カウンセラーといった専門職って商売でって商売ではない仕事。
そんな気がしませんか?
後倫理規定とは離れますが、商売なのか?についてはこんなこともありました。
「地域No.1」を掲げることに、違和感を感じる
カウンセリングをもっと広く知っていただくために、マーケティングを勉強していた頃のことです。
ランチェスター戦略の本を読んでいて、地域や特定の分野で「No.1」になることの重要性が書かれていました。
「この地域でNo.1」「○○の分野ならNo.1」という実績を打ち出すことで、選ばれやすくなる。
普通の商売であれば、大きな強みになる考え方だと思います。
でも、ですね・・・
私が提供させて頂いているカウンセリングには、交流分析でいう「I’m OK – You’re OK」という理念があります。
カウンセラーだから上、悩みを抱えているクライエントだから下、という関係ではありません。
私は専門的な知識や技術を提供させて頂いていますが、クライエントさんは自分自身の人生を生きてきた専門家でもあるんです。
「一人の人間として、あなたと向き合う」
1番じゃなくてもあなたには価値があります。
そんな安全で安心できる場所であるからこそ、「No.1」という言葉をカウンセリングのマーケティングに使うことに、私はどうしても違和感がありました。
そのマーケティング手法自体が間違っているわけではないんです。
ただ、私が大切にしているカウンセリングの根幹に関わる考え方と、少し違う。
そう感じて、その方法を自分のカウンセリングルームでは採用しませんでした。
「カウンセリングを広げるためのマーケティング」
が、いつの間にか
「マーケティングのためのカウンセリング」
になってしまったら、元も子もないじゃないですか。
私はそう考えています。

【図解】土台(倫理)のないマーケティングは本末転倒に
倫理とは、「自分なら絶対に大丈夫」と思うことではない
今回、モームリのニュースをきっかけに改めて、心理カウンセラーの倫理について思い出しました。
紹介料の問題も、プラットフォームの手数料も、守秘義務の話も、一見すると別の話の様な感じもするかもしれません。
ですが、心理カウンセラーや、専門職、士業では各専門職の倫理観につながっています。
それは、
「自分の判断に、経済的な利益や競争原理が入り込んだとき、それでも私は目の前の人を平等に見ることができるのか」
自分なら絶対に大丈夫なんて思っていません。
環境によって判断が変わることがあります。
自分では気づかないうちに、何かの影響を受けることもあります。
だからこそ、
「自分は絶対に公平でいられる」と盲信するより、「公平でいられなくなる可能性をできるだけ小さくする環境を、自分で選ぶ」
ことの方が大切なのではないかと思っています。
私にとって、心理職にとって倫理規定とは、きれいな言葉を掲げる理想ではありません。
自分自身を含め、人間の弱さを前提にして、それでも目の前の人を大切にできるようにするための最低限の必要な外してはいけない規定になります。
倫理規定は、「紹介料を受け取ってはいけない」「友人のカウンセリングをしてはいけない」という、単なる行動のリストではないと思っています。
大事なのは、その規定の背景にある、「なぜそれが禁じられているのか」という理由の方です。
例えば、多重関係が禁じられているのは、「友人だから」という関係の名前が問題なのではなく、その関係の近さによって、客観性が失われる可能性があるからです。
もちろん、最初から、その「なぜ」の深いところまで理解するのは難しいかもしれません。
倫理規定を学び始めたばかりの頃は、まず「形」として守ることから始まり、
そこから、実際に現場でさまざまな経験を積み、学びを重ねる中で、「なぜこの規定があるのか」が、少しずつ自分の中に腑に落ちていく。
私自身、22年以上かけて、今もその途中にいます。
その「問い続けること」を促す指針が、倫理規定なのかなと思っています。
なぜを問い続けなければ、今回のモームリ社の件のように、規則の文言だけをかいくぐり、あの手この手で手数料を得る仕組みを作ってしまうことに繋がるかもしれません。
時代が変わる中で、何を変えて、何を変えないのか
そしてそれは、今後現れるであろう新しい技術や環境についても、同じことが言えると思います。
AIがカウンセリングに関わるようになるかもしれません。
SNSによってカウンセラーを選ぶことが当たり前になるかもしれません。
マッチングプラットフォームが、今以上に発達するかもしれません。
これまでには存在しなかった新しいマーケティング手法も、次々と出てくるでしょう。
それらを否定するつもりはありません。
時代に合わせて変わることも必要です。
ただ、新しいものを取り入れながらも、倫理規定が本当に求めている「なぜ」を守り、心理職として歩んでいけるのか。
そこができて初めてクライエントさんがより楽により幸せに過ごすきっかけとなる盤石な土台ができるのかと思っています。
心理カウンセラー、心理職として、何を変えてよくて、何を変えてはいけないのか。
私は、その答えをすべてわかっているわけではありません。
今も模索している途中です。
けれど、今の私が大切にしていることがあります。
言っていることと、やっていることを変えないこと。
クライエントさんには「あなた自身を大切にしてください」と伝えながら、自分は売上だけを優先する。
「あなたと私は対等な人間です」と言いながら、自分をNo.1として相手より上に置く。
「あなたの人生を一緒に考えましょう」と言いながら、経済的な利益によって人を見る目を変える。
私は、そういう矛盾をできるだけ作りたくありません。
もちろん、私は完璧な人間ではありません。
これからも迷うことはあると思います。
それでも、迷ったときには、
「これは心理職として、目の前の人のためになっているだろうか」
と、一度立ち止まって考えたいと思っています。
カウンセリングを必要としている人に、ちゃんと届くために
カウンセリングルームを経営する以上、私はこれからもマーケティングを考えていくでしょう。
ホームページも改善します。
SNSも使います。
新しい技術も取り入れていきます。
より多くの方に、カウンセリングという選択肢を知っていただきたいと思っています。
ただし、手段が変わっても、目的まで変えてはいけないと思っています。
私が目指しているのは、数字の上で「一番」になることではありません。
カウンセリングを必要としている方が、必要なときに、安心して相談できる場所の一つであること。
そして、その場所に来てくださった一人ひとりに対して、その方が見ていない新しい世界を見て頂ける様にサポートさせて頂くことです。
カウンセリングは、商売です。
でも、普通の商売と同じではないと思ってます。
人の心に触らせていただき、人の人生に関わらせていただく仕事だからこそ、商売の論理だけでは決められないことがあります。
今回のニュースは、私にそのことを改めて考えさせて貰えました。
そしてこれからも、時代が変わるたびに問い続けれたら良いな。と思います。
「心理カウンセラーとして、変えてはいけないものは何なのか。」
クライアントさんがより楽により幸せに過ごされる様に、その答えを探しながら、私はこれからもこの仕事を続けていきたいと思っています。
カウンセリングを受けようかなと迷われているのでしたら、完璧なカウンセラーを探す必要はありません。心理職の最低限のルールである倫理規定を守り、あなたのことを本気で大切にしようとするカウンセラーを探して頂ければと思います。






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